2回目の読了
読んだと書いてはいるが、実はもうずいぶん前(1年前)のことだ。しかもそれは2回目の読了であり、1回目はもう10年以上も前のことだと思う。10年も空けて1年前(2024年1月)に再読したのは、今になって映画化されたというので、(そういえば原作を随分前に読んだ記憶があるけど、どんなんやったっけ?)と思ったからだ。
東野圭吾は、今や押しも押されもせぬ人気作家だが、デビュー当初はなかなかヒット作に恵まれず不遇な時を過ごしていた。しかし、1998年の「秘密」でブレイクした後は、本作を含み毎年のように直木賞の候補に挙がり、2006年の「容疑者Xの献身」で遂に直木賞を受賞し、その地位を不動のものにした。
その名前が売れ出したのは1997年の「このミス」で3位となった「名探偵の掟」からであるが、同書は私も読んだが無茶苦茶面白くて、当時は繰り返し何度も読んだのを覚えている。そこから興味を持って昔の作品を読みだしたのだが、その「名探偵の掟」で本格推理を揶揄していた割に、元は本格推理を愛しており本格推理モノをたくさん書いていたことが分かった。
華麗なる転身
「密室や暗号といった古典的な小道具が大好きで、時代遅れだといわれようとも、こだわり続けたい。」と言い、初期にはトリックや意外性に重きを置いた作品を書いていた。その頃はいわゆる本格推理小説の「お約束」を好んでいたようだが、「名探偵の掟」ではその「お約束」を茶化すまでに変化する。
その後は、現実に即した社会派推理小説にシフトし、 1999年の「秘密」や2000年の「白夜行」などは高い評価は得るものの、本格推理から距離を置いた作風の変化に対して古いファンからは少しさみしいという声もあったという。かくいう私も「秘密」も「白夜行」も読んだが、好きにはなれなかった。
もちろん、どちらもすぐに読了したし、流石に読ませる力は凄いとは思ったが、私が東野圭吾に求めるものとは違っていた。やはり現実離れしていたり人物描写が薄かったり現実的でなかったりという部分はあっても、本格推理の世界感に浸かり「アッ」と言わされたいのだ。
あらすじ
ある芝居のオーディションに合格した男女7人が、何も分からないまま演出家から、とある山荘に呼び出される。そして、「これは舞台稽古だ。雪で閉ざされた山奥の別荘、電話も繋がらない孤立した状態。その中で今後起こる出来事に各自が自分で考えて行動をするように。」と告げられる。
7人は「舞台稽古」であるはずだが、実は「舞台稽古」に見せかけた殺人ではないかとの疑念をそれぞれ抱くが、連絡や脱出といった方法を取ることで「役を降ろされる」かもしれないという思いから、抜け出すことができない。作られた「閉ざされた雪の山荘」で起こっているこれは、芝居なのか現実なのか…
「ある閉ざされた雪の山荘で」の感想
本書「ある閉ざされた雪の山荘で」は1992年の作品というから、まだ東野圭吾がゴリゴリの本格推理を書いていた頃の作品である。よって、内容的にはシチュエーションや人物の行動に対する動機など、現実離れしている部分は否めない。しかし読む方のお約束としてもそれは了承済であり、あまりに荒唐無稽でない限りは許容できる。
「雪の山荘」と言っているが実際には雪など積もるどころか降ってもいない。「雪の山荘」と聞くと密室であったり足跡であったりが問題になる事が思い浮かぶが、舞台は「仮想の閉ざされた山荘」であり、実際は密室でもないし、足跡も問題にはならない。この「作られた雪の山荘」という状況が面白い。
また、劇団員のうちの一人の独白が入るという構成も、叙述トリックや独白者の犯人性なども匂わせているところが、ますます本格味があってワクワクする。しかし、これだけでは満足という訳にはいかず、やはり作品の良し悪しは結末によりけりである。そして、本作の読了後はというと、私はちょっと「う~ん。」という感じにはなった。
以下「ネタバレ」ありですので、注意してください。
評価と採点
次々といなくなる(殺されている?)ことを、劇団員は「芝居だと思っている」、真犯人は「事実だと思っている」、そして真犯人の協力者は「真犯人に事実だと思わせている」という三重構造を書ききっているのは凄い。ただ、勘のいい人なら「真犯人」の視点や、事実か芝居かなどは途中で気づいているかもしれない。
しかし、私は分からない(または分かろうとしない。実は小説を読んでいる人の大多数がそうだと思っているのだが、どうでしょう。)まま読めたので、ドキドキしたし、トリックも「へえ、なるほど」と感心もした。また、シンプルに「よくこんなの思いつくなぁ」と思った。
ただ、死んだと思ったら生きていた。という事実が「良かった。生きていた。」ではなく、なんか逆にモヤモヤした。それとこの殺人計画に至る話がどうも微妙で。ただ、これが「トリックや意外性に重きを置いた作品」のさだめなのだろうとは思った。ちょっと私の言ってることに整合性の問題はあるが、そう思ったんだから仕方ない。採点は55点で。

