仙川環(せんかわ たまき)
始めて読む作家である。そして、名前も作品名も全く知らない。では何故この「人体工場」を手に取ったのかと言うと、医療ミステリー(結果的にミステリー要素はあまり無かったが。)が好きなことと、「人体工場」という題名に惹かれたからだ。臓器移植のために作られたクローン人間の工場の話なのか、戦士を作る工場なのか。
実際は「人間を作る工場」ではなく、「人間が工場となる」話だったので(思たんと違う)感はあったが、題名と内容が違うなんて小説でも映画でも漫画でもいくらでもあるし、それで内容さえ良ければ題名のことなんか忘れるのが普通だ。ただ、ちょっとスケールダウンした感は否めなかった。
仙川環(せんかわ たまき)は1968年生まれの女性作家で、元は日本経済新聞社の記者だったという。大阪大学大学院医学系研究科の修士課程を修了しており、細胞・タンパク質などといったバイオテクノロジーの研究をしていた。その経験を生かして、医療関係や科学技術の取材を担当する。
同社に在籍中の2002年、「感染」で第1回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。2006年に退社し、小説家として専念することになる。医療や科学技術を題材としたミステリー・サスペンスを主な活躍の場としている。2007年にテレビドラマ化された「終の棲家(ついのすみか)」あたりが代表作であろうか。
あらすじなど
以下「ネタバレ」を含みます。注意してください。
検査の結果、尿から大量のたんぱく質が出ていることが判明した。しかし、腎機能には全く異常がない。自分の身体は一体どうなっているのか。大学生・真柴徹は「以前参加した治験バイト」に疑問を持ち、一緒に治験を受けた火野美紀とともに、検査をした美人医師・若松みなみの協力を得ながら真相を探ろうとする。しかし、火野美紀は突然行方不明となる。そして真柴徹は恐るべき計画の存在に気付く・・・
というあらすじだけで、もう「人間を作る工場」の話でないことはある程度分かる。そして、人間を工場として何か(何かの特効薬)を作るのだろうというのも、ほどなく予想できた。このあたりがフーダニット的な(何が目的なのか、誰が黒幕なのかを推理する)というミステリー部分なのだろうが、トリックで言えば簡単すぎるもので「へぇ」くらいの感想しかなかった。
ただ、私はどっちかというと推理小説よりは冒険小説が好きなので、単身敵地へ乗り込むあたりが面白ければ良かったのだが、どうも迫力に欠けてあまり楽しくは無かった。敵のほうも人数的にもキャラ的にも小ぶりだし、主人公側もあまり共感できないし魅力的なキャラもいなかった。(得体の知れない強大な敵)をやっつけるみたいな話が聞きたかった。
ただ、読みにくいという事は全くなく、むしろスラスラと読めた。それは、微妙に敵なのか味方なのか分からない医師が、思ったとおり味方だったのがホッとするとか、概ねこうなってほしい(というか、こうなるかな・・・)というのがその通りだったからなのだろう。ただ、言い換えれば意外性が無く、ハラハラするまえに落ち着くところに落ち着いてしまっているということだろう。それじゃドキドキしない。
とはいえ、私は勧善懲悪・ハッピーエンドが大好きなので、こういう分かりやすい結末は好きなのだが、「水戸黄門」や「吉本新喜劇」のような予定調和・お決まり感では、ほのぼのしたりクスッとしたりホロっとはするけど、ドキドキしたりスカッとしたり「えーっ!!」と声を出したりすることはない。ただ、それが最初から分かってるから許せるのであって、期待値MAXの時にはライトに過ぎる。
感想と採点
題材とかプロットはいいと思うし、もっと深くもっと広げられそうなのだが、関係する人間も個人レベルどまりだし、倫理観の問題も掘り下げていないしうやむやで終わっている。結論が出ていなくとも問題提起で終わるのもありかと思うが、そうでもなさそうだ。
あと、本筋とは関係ないが、ドラえもんの登場人物を使うたとえに違和感があった。ひとつは「ジャイアンでたとえてるけど分からない、またはピンとこない人も多いのでは」という思いと、もうひとつは小説の内容にそぐわないというか何か陳腐さを感じてしまったことだ。とはいっても、同じような世代間で感じ方が違うと思われるたとえをしている小説はあったように思うので、もっと上手くサラッと書いてあれば気にならなかったのかもしれない。
全くつまらないとかは思わないが、再読はしないだろうし、正直この作家の他の作品を読んでみようとは思わなかった。「人体を使って製薬する」「人体に影響は無い」というのが善なのか悪なのかというテーマで、それが組織として人間を道具として使っているというのなら問題だろうが、直接的に子が親のために自分の身体を使って製薬する訳ではなくとも、親子がらみになっているのがひっかかった。
それだと臓器移植や骨髄移植を親子間で行うのと同じで、「別に悪くない」と思うのは私だけだろうか。「人間工場」が許されないことだったとしても、私だって子のために自分が製薬工場になれるなら、それは当然なるし、例え副作用や身体に影響があっても私ならやる。なので、この問題を問うなら、「組織として何の関係もない人間を、その人間の意志に反して人間工場にする」というテーマにしてほしかった。
採点は・・・55点。


コメント