一平二太郎
小学6年生の時に読んだ「項羽と劉邦」に始まってハマり、一方のベクトルで中国の歴史ものに、もう一方のベクトルで司馬遼太郎にハマった私である。司馬節や司馬史観と言われる司馬遼太郎の作品は紀行もの以外はほとんど読みつくした。
これで、文芸評論家である川本三郎氏をして「大人の男子が嗜むべき一平二太郎」と言わしめた太郎のうちの一人をほぼ読破したことになるが、実は残りの「藤沢周平」「池波正太郎」はまだ1冊も読んでいない。
そろそろ私の寿命も尽きるころだから、読んでおかなくてはいけない。少し前まではあまりそんなことを考えてはいなかったが、最近、「死ぬまでに観ておかないと、読んでおかないと」と思うことが多い。本当に最期が近づいているのかもしれない。
それはさておき、「ほぼ読んだ」と言った司馬作品だが実は初期の忍者ものは未読である。これは例えば水島新司の野球以外の初期作品を読むようなもので、やはり司馬遼太郎が「忍豪作家」と言われていた時代の「忍者もの」は何か違うよなと思って避けていたのだ。
直木賞受賞作「梟の城」
しかし初期の忍者ものであるとはいっても「梟の城」は直木賞を受賞したほどの作品だから、質が低いということもなかろう。司馬遼太郎はかつては推理小説も書いていたというが、そちらは実在する本さえ見たことが無いくらいだから、おそらくそちらはイマイチだったのだろう。
さて、この「梟の城」、まずはあらすじから紹介しよう。
織田信長による伊賀忍者への侵攻「天正伊賀の乱」で滅ぼされた伊賀忍者の生き残り、葛籠重蔵(つづらじゅうぞう)は、仇としていた信長が亡くなり生きる希望を失い隠遁生活を送っていた。そこに信長の後を継ぐ豊臣秀吉の暗殺を持ちかけられる。重蔵(じゅうぞう)は、忍者としての生を全うするためにその依頼を引き受ける。
依頼主である今井宗久が放ったくノ一「小萩」は、実は重蔵の見張り役だったのだが、二人は通じ愛し合う仲となる。重蔵は秀吉暗殺のため、その居城伏見城へ潜入する。そこには伊賀を裏切り者である風間五平が待っていた。五平との対決、秀吉の暗殺、小萩との関係はどうなるのか・・・
実在の人物が登場し、時代背景に沿った話ではあるが、基本的にはフィクションである。
「梟の城」の感想と採点
後の歴史小説群とは明らかに違う。まずは、当時はそこが評価されたという忍者同士の緻密に描写された対決シーンが多い。そして併せて艶のあるシーンも多い。これは当時流行っていた山田風太郎らによる忍法帖ものの影響を受けたのと、それを求める読者に寄り添った流行作家としての仕事という側面が大きいのではないか。
ただ、先に述べた推理小説と同じで(特に色事のシーンなどは)本来、苦手だったのではないだろうか。また、忍者の対決場面もいいが、やはり司馬遼太郎は顕微鏡で見たものを緻密に描写するよりは、山の上から俯瞰するのが得意な気がする。
いくらフィクションとはいえ、秀吉の暗殺に成功する結末にはできないから、秀吉の死という結末にならないのは分かっているが、暗殺に失敗ではなく止めてしまうというラストはなんとなく腑に落ちなかった。一般的には良作なのだろうが、私のような歴史小説から入った司馬ファンには物足りないかも。採点は・・・63点。

