件(くだん)
先日読んだ田中啓文の「件(くだん)」、ちょっと私には合わなかったのだが、人語を使い予言する牛という設定は魅力的で、駄洒落やドタバタではなくシリアスでホラーなテイストだったら、かなりの良作になっていたのではないかと思う。
ただ、ゴールデンカムイというシリアスからエログロ・パロディに大きくシフトしながら大成功した作品もあるから、そこはなんとも言えない。それよりその「件(くだん)」であるが、魅力的な設定と言ったものの、実は江戸時代の末期あたりから存在する(もちろん、ホントにいる訳じゃないが)妖怪のようで、それをモチーフとした作品はいくつかあるようだ。
件(くだん)は、予言牛と言われ、疫病の流行や豊作といった吉凶禍福を予言し、その姿は人面牛身という。その逆である牛頭人身の姿をした「牛頭(ごず)」という、地獄で亡者を責める獄卒というのがいるが、ほかにもミノタウロスやモロクといった人面牛身・牛頭人身の生き物は世界中に散見されるというから、人類にとって普遍的で神秘的な存在なのだろう。
SF界の重鎮、小松左京
そんな件(くだん)を扱った物語で、日本SF界の重鎮小松左京(2011年80歳没)が書いた「くだんのはは」という小説が、とんでもなく恐ろしくい上、あの筒井康隆をして「小松左京の最高傑作」と言わしめた「究極のオチ」があるらしく、読んでみるべく早速図書館に赴いた。
残念ながら「くだんのはは」は見つからなかったのだが(短編なので、どこかに紛れて掲載されているかも知れない。また探してみるつもり。)、もともとSFも読む私が、筒井康隆、星新一はいくつか読んだことがあるのに、小松左京だけは読んでないことに気づき、小松左京の他の小説を読んでみることにした。
いつもどおり予備知識なしで来ているので、適当に2冊借りた。なお、代表作の「日本沈没」もあったのだが、なんとなく避けてしまった。(そんな気持ち分かるでしょう。)
その2冊というのが「地には平和を」と「ゴルディアスの結び目」で、題名的に大作感のある「地には平和を」を先に読むことにした。結果的に短編集だったので、大作感もくそもなかったが、1話目の「地には平和を」を読み終わったところだが、これは面白かった。
地には平和を
パラレルワールドの話であって、特別に目新しいものではないのだが、余計なものが削ぎ落されテンポがいい。まあ、短編だからそりゃそうなのだが。次の話も楽しみだし、他の小松左京作品も読んでみようと思った。
なお、「地には平和を」はかなり初期の作品で、1963年に初の短編集として発売され、直木賞の候補にもなったという。ただ、その選評は、小島政二郎「小説としての興味が沸いてこない」村上元三「候補作となるには弱い」松本清張「SFとしても不十分で、文章も未熟でぎこちない」と手厳しい。
小松左京は生涯、文壇から正当な評価を得ることは無かったと、「小松左京自伝」でも触れており、これは娯楽作家の宿命でもあるのだが、商業的評価が高ければ高いほど、芸術的評価が相対的に下がるのは、人間(じんかん)の摂理である。私は面白けりゃ、それでいい。
まずはこの短編集「地には平和を」を読破し、次は一緒に借りた「ゴルディアスの結び目」を読もう。実はこの「ゴルディアスの結び目」こそ氏の代表作であり、評価の高い作品らしい。楽しみである。そして、「日本沈没」と「くだんのはは」を探そう。


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