江戸川乱歩賞
首藤瓜於(しゅどう うりお)という、聞いたことのない作家の「脳男」という小説を読んだ。レコードでいうジャケット買い的な、「題名」買い(といっても、図書館で借りたので買ってはないが)で手に取ってみた。とはいえ、貴重な時間を使うことから流石に題名だけでは怖いのは否めない。そこは「江戸川乱歩賞」受賞作という看板を頼りにさせてもらった。
とは言ったものの「江戸川乱歩賞」がどんなレベルのものか、特に参考になる「今までにどんな作品が受賞しているか。」については、あまり意識していなかったし、きっちりとは知らなかった。そこで、改めて(読後に調べても意味は無いかも知れないが)「江戸川乱歩賞」について調べて整理してみることにした。
主催は日本推理作家協会で、選考委員のメンバーは第71回(2025年)でいうと有栖川有栖、貫井徳郎、東野圭吾、湊かなえ、横関大という面々。なんと第1回(1955年)~第10回までの選考委員には、江戸川乱歩が名を連ねている。
推理作家への登竜門として知られ、受賞作は講談社から出版される。さらに第2作以降も講談社から手厚いバックアップがなされ、岡嶋二人(第28回(1982年度)「焦茶色のパステル」で受賞)は、編集者に「直木賞を受けて消えた作家はいても、乱歩賞を受けて消えた作家はいない」と言われたという話があるほどだ。
確かに、第31回(1985年度)「放課後」の東野圭吾、第37回(1991年度) 「連鎖」の真保裕一、第44回(1998年度)「果つる底なき」の池井戸潤など、後に活躍する作家も多い。さらには、島田荘司「占星術殺人事件」、綾辻行人「十角館の殺人」など落選作にも名作が多いことも知られる。
「脳男」シリーズ
そんな江戸川乱歩賞を受賞した作品ということで期待も上がるところだが、私にとっては「首藤瓜於」も「脳男」も初耳なので、首藤瓜於が受賞後どうだったかというのは非常に気になる。こちらも少し調べてみよう。
そもそも首藤瓜於が世に出ることになった受賞作「脳男」が江戸川乱歩賞(第46回)を受賞したのは2000年で、「うじ虫の災厄」が候補作となった翌年の受賞だった。全選考委員の満場一致で、受賞が決定したという。
その後、「脳男」シリーズとして2007年に「指し手の顔 脳男II」、2021年に「ブックキーパー 脳男」が刊行されている。ほかに長編が数冊刊行されているが、2016年あたりから作家活動は目立っておらず、その後も2021年の「ブックキーパー 脳男」と2023年の「アガタ」が出ている程度である。
これは寡作というだけでなく、芸術関係のプロデュースなど別の仕事もこなしており、作家1本ではやっていないことが原因だろう。なお、「脳男」シリーズ以外の作品がそれを超えているという事は無さそうなので、「脳男」及びそのシリーズが今のところ作者の代表作となっているようだ。
「脳男」は2013年に映画化され、初日3日間で興行収入3億、観客動員22万を超えランキング(興行通信社調べ)で初登場第2位とまずまずの好評だったようだ。ちなみに主題歌はキング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」。なお、シリーズ2作目の「指し手の顔 脳男II」はかなりの問題作と言われているようだ。
あらすじと感想
愛宕(おたぎ)市で発生した連続爆破事件。事件を追う茶屋刑事が容疑者の住処に踏み込むと、そこには容疑者と格闘する鈴木一郎と称する男がいた。鈴木一郎は共犯とみなされ取り調べを受けるが、素性がはっきりしない。
精神鑑定を頼まれた鷲谷真梨子は、鈴木一郎に違和感を覚える。彼は知能は平均的であるが、一度見たものは全て記憶している。鑑定を進めるうちに鈴木一郎には痛みや悲しみといった感情が完全に欠如している脳だけの人間(=脳男)ではないかとの疑問を持つ。彼はいったい何者で、事件とはどのようにかかわっているのか・・・
素性の分からない鈴木一郎の過去を調べ、それがいくつか分かっていくあたりは面白かったが、最後まで楽しめたり共感はできなかった。「感情」とは何か。感情がない人間が行動をする動機とは何かということがテーマであって、その書き方が論理的で丁寧で考察も深いとは思う、だが小説としては面白くなかった。
驚異的な記憶力があるが感情のない脳だけの人間=いわばロボットやアンドロイドと同じだと思うが、そういう人間が人間を見てそれを真似し、まるで感情があるがごとく振る舞うとか、振る舞おうとするといったテーマはよくある話だが、それが単に人間であるというのが本作だろう。
こういうのを面白いと思う力が私に無いだけなのかもしれないが、私はあまり楽しくなかった。関係ないが、地名や登場人物の名前が覚えにくいのはちょっと気になった。愛宕(おたぎ)は「あたご」じゃダメだったのか?
京都に愛宕念仏寺(おたぎねんぶつじ)というのがあるらしいが、愛宕と書けば99%は「あたご」だろう。他にも「空身(うつみ)」とか「緋紋家(ひもんや)」「入陶(いりす)」とか覚えにくい名前が多くて・・・採点は55点。続編は私は読まないかなぁ。


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