テセウスの船とは
モーニングに連載されていた「テセウスの船」(単行本全10巻)を読んだ。TBS系において主人公を竹内涼真、その親を鈴木亮平が演じてドラマ化されたので、それで知っている人も多いだろう。
なお、私はドラマ版を見ていないので詳しくは知らないが、漫画とドラマ版では結末が違うようなので、そこは注意してほしい。
「テセウスの船」とは、テセウスのパラドックスとも言われ、スワンプマンなどと一緒の同一性の問題である。テセウス(ギリシャ神話に登場する英雄)が乗った船は、その朽ちた部分を次々と新しい部品に変えて存続しているが、この時、全ての古い部品が新しいものと変わってしまった場合、最初の船と現在の船は同一のものと言えるのかという問題である。
この問題は色々な観点から議論されており、先に挙げたスワンプマン(沼男)はそのうちのこのような思考実験である。
「ある男に雷が落ち、男は死んでしまう。と同時にすぐそばの沼にも雷が落ち、沼との化学反応により、先に死んだ男と全く同じ原子構造を持つ人間を作り出した。この死んだ男と沼から生まれた男(スワンプマン)は同一の人間と言えるのか。」
鴨長明『方丈記』の冒頭の有名な文章「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」も、川の同一性の問題を想起させる。誰もが知っているアンパンマンも同じで、顔を付け替えて元気100倍になったアンパンマンは、前のアンパンマンと同一のものなのかどうか。
複数の世界線
漫画「テセウスの船」はタイプスリップを取り扱った作品で、世界線が複数存在する。そこには複数の同一と思われる人間や家族性が存在するが、それは同一といえるのかという問題を含むが、読む分にはそこは気にしなくとも楽しく読める。
タイムスリップを扱う作品では必ず起こる問題ではあるが、世界や人間の同一性を主題にしているものはあまりなく、過去に行って現代の問題を解決するというのが主題になるものが多い。ただ、この作品も過去に戻って現代を変えようとするのは同じである。
以下、少し内容に触れる(犯人ばらしはしない。)ので注意してください。
あらすじ
主人公の田村心(しん)は、父親の佐野文吾が児童16人、職員5人を無差別に殺害した事件の犯人として死刑判決を受けたことから、「殺人犯の家族」として迫害されたため母親の旧姓を名乗り、世から逃げ隠れた生活をしていた。
そんな心も結婚をして、遂には子供が生まれる。しかし、子の誕生と同時に妻は亡くなってしまい、子は結婚を反対していた妻の両親に引き取られてしまう。それを機に心は「父が本当は犯人では無く冤罪であったなら、自分の子は犯罪者の孫では無くなり、自分と一緒に幸せに暮らせるはずだ。」と思い直し、改めて事件について調査する。
既に冤罪の可能性を感じていた妻が残したノートを基に、心は事件のあった小学校に向かう。そこで謎の霧に包まれ事件当時へタイムスリップする。という話である。父は本当にやっていないのか。だとすると犯人はいったい誰なのか。そして冤罪を証明するとともに警察官だった父と一緒に、その無差別殺人を阻止しようとする。
読み応えあり
犯人の意外性だったり、過去が変わることによって変わる未来の姿の描き方、タイムスリップする主人公と、事件当時、母のお腹の中にいていずれ生まれる主人公との同一性などがきちんと整合性の取れたものになっており、読み応えはかなりのもの。
過去が変わったことにより一度は死んでしまう人が変わったり、妻が他の者と結婚していたりと、切なくも考えさせられる部分もあり、タイムスリップというSF的要素を備えながらも、リアルな感情や情景が浮かんでくる。
どんな展開になるかという楽しみと、全10巻という手ごろな冊数なので、あっと言う間に読んでしまった。基本的な設定に大きな変化を加えてないのに、ドラマは結末と犯人が違うというから、そっちも観てみたくなった。とりあえず漫画はおススメです。91点。


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