PR

横山秀夫の「出口のない海」を読んだ。

小説

横山秀夫の異色作

横山秀夫といえば「64(ロクヨン)」や「半落ち」といった作品に代表されるように、警察小説の第一人者であり、私もその両作品は楽しく読ませてもらった記憶がある。 さらに「第三の時効」という短編の警察小説がこれまた非常に面白く、一時期は横山作品ばっかり読むほど私もハマっていた。

警察小説だけでなく、「クライマーズ・ハイ」という日本航空123便墜落事故を題材とした小説も読んだ。これも素晴らしいデキで、作者の横山秀夫が上毛新聞社の新聞記者だった時に遭遇していたというだけあって、臨場感と迫力のある良い小説だった。

そんな横山秀夫が書いた、「出口のない海」を読んだ。これは作者としては少し普段とは毛色の違う作品で、まず現代の作品でなく二次大戦中の話であり、また作者の良く知る世界の話ではない。相当の資料や文献に当たって書いたようで、私もその名前くらいしか知らなかった「回天」のことを深く知ることができた。

戦時中の兵器と兵隊を題材とした作品であるが、戦闘の場面は少なく人物に焦点を当てたドラマが中心となっている。戦争の悲惨さや過酷さよりは、戦争に巻き込まれた人たちの心の動きが描かれており、題材の割にはしんみりと胸に染み入るような作品だった。

あらすじなど

甲子園の優勝投手だった「並木」だが、その後肘を痛めてしまい以前のような投球ができなくなる。並木は復活のため、「魔球」の完成を夢見て投げ続ける。しかし、太平洋戦争が勃発し日に日に戦況は悪くなる。海軍は、ついに海のカミカゼ特攻隊たる人間魚雷「回天」の採用に踏み切ることとなる。並木はその搭乗員として選ばれ、遂に「回天」での出撃を迎える・・・

横山秀夫の作品だが、見てのとおりミステリー要素は全くない。そして、全体的には他の作人に加えて「抑えて書いている」感じがする。変な比較にはなるが、警察小説における「警察官としての競争や矜持」より本来は重く深いはずの「直接的に命を懸ける戦争」が、少し淡々と書かれている印象。

これは命が軽かった(軽いというよりはそれを是とする、または是とせざるを得ない風潮)という時代背景を映したのか、または作者を含む現代人が実感できないことを表しているのか、どっちにしても私には心地よかった。これで暑苦しく命の軽重を書かれていてもかえって白々しい感じがしたかもしれない。

これは歴史小説なんかを読んでいても感じるのだが、吉田松陰なんかも意外にさらっと喋ってサラッと死んでいる。もっとしぶとく生きて自分のやりたいことを実現した方が良かったように思うのだが、どうもそうではないらしい。生きて恥を雪ぐよりは死して恥を晒さないということなんだろうが、ちょっと共感できない。

評価と採点

どんな作家にも得意不得意というのはあろうし、本人の書きやすさとか書き心地と読者の読みやすさや読み心地にも温度差があって、それがこの横山秀夫の場合はやはり「警察小説」というジャンルでこそ、読者に支持されるのだろう。私もそうで、本作「出口のない海」も良作とは思うが、横山秀夫ならやはり「64」や「第三の時効」が読みたいしおススメもしたい。

役者でも自分ではあまり気に行ってない役がハマり役になったり、漫画だって作者の書きたいものがウケなくて、編集に誘導されたものがウケるということはよくある。受け手あっての小説や漫画なので、それは仕方のないところだが、やはり本来は書きたいものと読みたいものが一致するのが理想だろう。

横山秀夫がどうかは知らないが、私はやっぱり横山秀夫の警察小説が読みたい。特に「第三の時効」の舞台である「F県警強行犯シリーズ」の続編が読みたい。最近では一番面白かった。そこで本作「出口のない海」を採点しよう。私にはやはり合うのか、読み進みがよく、少し抑制された書き方であり心情もそこまで深く描かれていない感はあった。

しかし、最後のシーンは流石というべきで、ジーンと熱くなった。本当はもう少し高い点をつけたいが、どうしても他の横山作品と比べてしまうので、少しだけ下げて、84点。

コメント

タイトルとURLをコピーしました